11月10日は「無電柱化の日」
こんにちは。11月10日は「無電柱化の日」だそうですね。
「111」と3つ並んだ「1」を電柱に見立てて、それを「0」にするという意味で11月10日としているとのこと。
阪神淡路大震災や東日本大震災では倒壊した電柱によって緊急車両が通行できない状態になりましたし、2019年の台風15号では千葉県などで約2,000本の電柱が損壊、90万戸以上が停電という被害がでました。
このように地震や台風などの災害時には「電柱の倒壊」が問題になりますし、景観を語る際にも決まって「電柱や電線が邪魔」との話が出てきますね。
ただし、電気や通信の電線を無くすわけにもいかないので、都市の中心部などで電線類を地中に埋設したりすることによる、道路の「無電柱化」が行われています。
2016(平成28)年には「無電柱化の推進に関する法律」が制定されるなど、無電柱化事業が進められているのですが、この法律で「11月10日は『無電柱化の日』」と位置付けられているのです。
同法で無電柱化の日には「国及び地方公共団体は、その趣旨にふさわしい行事が実施されるよう努めること」とされていますが、今年はイベントが少ないですね。
「無電柱化の日」フォトコンテスト(東京都)やパネル展(芦屋市)などが開催されているようです。
全国には約3,600万本の電柱があり桜の木と同数
とはいえ、「全国には依然として約3,600万本の電柱が建っており、さらに毎年約7万本ずつ増加しているのが現状である。」(無電柱化推進計画:2018(平成30)年)とのことで、国土交通省のポスターなどによると「(全国の)桜の木の数も約3600万本!」で同数あるようです。(山中にある桜の木の数をどうやって数えたのか、聞きたくなりますが:笑)
このうち約2/3が電力柱、約1/3が(NTTなどの)通信柱とのことです。
無電柱化の目的
無電柱化の目的については以下のように「景観・観光」、「安全・快適」、「防災」があげられています。
● 無電柱化は、「景観・観光」、「安全・快適」、「防災」の観点から推進しています。
「景観・観光」・・・景観の阻害要因となる電柱・電線をなくし、良好な景観を形成します。
「安全・快適」・・・無電柱化により歩道の有効幅員を広げることで、通行空間の安全性・快適性を確保します。
「防災」・・・大規模災害(地震、竜巻、台風等)が起きた際に、電柱等が倒壊することによる道路の寸断を防止します。
<出典:国土交通省>
また、「無電柱化の推進に関する法律」に先立つ同趣旨の法律としては「電線共同溝の整備等に関する特別措置法」(1995(平成7)年)があります。
当時から景観などの観点から法律制定を目論んでいたのですが、いざ制定できた理由としては「防災」だったようです。
(電線共同溝の概要については後ほど説明します。)
電線共同溝の整備等に関する特別措置法(電線共同溝法)を担当した。
都市内に縦横にかけられている電線は日本の都市景観を悪くしている最大の要因の一つだ。この地中化のための法律だった。
当初としては景観の整備をメインの法目的としたかったのだが、同法では電線共同溝の整備済みの道路での電線電柱の占用制限も考えており、景観だけで規制までするのは如何かという議論もあり、結局、安全かつ円滑な交通の確保が主目的で景観の整備はやや2次的な目的になってしまった。
ところがその後、法案審査中に阪神・淡路大震災が発生し、被災地で倒壊した電柱が道路をふさぎ、被災者救援や復旧を阻む例が多発した。急きょこの法律のアピールポイントを防災対策に切り替え、「災害時に安全かつ円滑な交通の確保をするためにも、電柱電線の撤去を」といって国会説明に走り、スムーズに法律を通していただいた。結果的にこの目的規定は大正解だったが・・。
それでもこの電線共同溝法は、初めて景観を法目的に入れた法律として、当時としては画期的だった。
<出典>都市計画協会機関紙「新都市」(Vol.70 No11号:2016年)特別寄稿「法制局の審査机」(元内閣法制局第2部参事官 山崎篤男)より抜粋
国土交通省道路局課長補佐として電線共同溝法制定に尽力した山崎篤男氏は、その後も内閣法制局参事官として「昭和年代の『海岸法』以来の3文字法」である『景観法』(2004年6月公布)の名付け親となり条文も審査することになりました。
景観法には、第一条(目的)、第二条(基本理念)で「美しく風格のある国土の形成と潤いのある豊かな生活環境の創造」という条文が出てくるのですが、この条文について以下のように述べています。
ただ、この基本理念の一言一言が後世の評価に耐えなければならないと思うと審査は大変だ。他法令の基本理念規定などをいろいろ参考にしながら試行錯誤で言葉を紡いでいった。
この景観法第2条は、目標的な文言や、私権制限の必要性、地域の活性化、景観の創出などいろいろな要請をーつにまとめた結果だ。国会ではおおむね好評で特に修正意見は出なかったと聞いている。
目的と基本理念の両方に入れた「美しく風格のある国土」という言葉は、立法例を調べて見つけた言葉だ。過疎地域自立促進特別指置法(過疎法)の目的規定に用例があった。過疎対策にも重要な理念かもしれないが、国土の景観政策の目標という意味で景観法にこそふさわしい理念でないかと思った。法律に著作権がなくてよかった。
<出典>都市計画協会機関紙「新都市」(Vol.70 No11号:2016年)特別寄稿「法制局の審査机」(元内閣法制局第2部参事官 山崎篤男)より抜粋
新たな「無電柱化推進計画」
前述の通り「日本にある電柱の総数は約3600万本」というのは、2018(平成30)年の「無電柱化推進計画」での記述ですが、2021(令和3)年5月に新たな「無電柱化推進計画」が策定されました。
概要は以下のように示されています。
【本計画の3 つのポイント】
➀新設電柱を増やさない(特に緊急輸送道路は電柱を減少させる)
毎年電柱が7万本増加している現状を踏まえ、関係者が連携して新設電柱の増加要因の調査・分析を行い、削減に向けた対応方策を令和3年度中にとりまとめ
➁徹底したコスト縮減を推進する
令和7年度までに平均して約2割のコスト縮減に取り組む
➂事業の更なるスピードアップを図る
無電柱化の完了まで7年を要している現状に対し、発注の工夫など事業のスピードアップを図り事業期間半減( 平均4年) に取り組む
【計画目標】
○令和3年度から5年間で約4,000kmの新たな無電柱化に着手
国土交通省 報道発表資料
https://www.mlit.go.jp/report/press/road01_hh_001451.html
無電柱化の方法
それでは、「どのように無電柱化するのか」をご説明したいと思います。
最も多いのは、「電線共同溝」方式です。歩道に地上機器(トランス等)が出てくるので、一定以上(概ね2.5m以上)の歩道幅員が必要になってきます。
<出典:「東京都無電柱化計画」>
この他、ヨーロッパなどで一般的に行われており低コストな手法として、「ケーブルの直接埋設」方式などがあります。ただし、電磁気による通信線への影響を防ぐ必要があること、地震時の復旧の際に破損個所の特定が難しいことなどの課題もあります。
また、地中化ではなく商店街など特定の道路に電柱を置きたくない場合の対策として「軒下配線」「裏配線」などの方法もあります。
東京都の整備状況は?
電線共同溝などによる電線類の地中化(無電柱化)には、一定以上の歩道幅員が必要です。
このため、例えば「東京都無電柱化計画」(2021(令和3)年6月)での「整備対象延長」は、「計画幅員で完成した歩道幅員2.5m以上の都道における電線共同溝等の施設延長(道路両側に施設がある場合は両側を足し合わせた延長)」としています。つまり「歩道幅員の狭い道路、歩道の無い道路は対象外」ということですね。
「東京都無電柱化計画」での「都道の地中化率」(P6)では、区部の地中化率は61%、都全体では42%としていますが、このような前提条件を踏まえる必要があります。
また、都内には都道に約5万5000本、区市町村道に約63万7100本の電柱があるとのことです。
我が国で無電柱化が最も進んでいる東京都でもこの状況なので、先進国の中で遅れていると指摘されているのも、やむなしと言えるでしょう。
終わりに(事業費など)
国土交通省によると「電線1kmを地中化しようとすると約5.3億円の整備費用がかかる」とされています。
私がかかわった土地区画整理事業(横浜市)でも都市計画道路(約600m)の両側歩道に電線共同溝を埋設するのに約6億円かかります。この場合「電線1.2kmを地中化しようとすると約6億円の整備費用がかかる」こととなりますので、ほぼ同じだと言えます。
このように多額の事業費はかかりますが、「景観・観光」「安全・快適」「防災」などの点から、全国の都市部市街地や緊急輸送路となる幹線道路を中心に、是非とも進めて欲しい事業といえますね。
<写真は国土交通省関東運輸局>
(注)本記事は昨年11月に別サイト(note)に寄稿したものです。
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