「建築家のもがき」を垣間見つつ、その理論を学ぶ

その他

 東京大学建築学専攻Advanced Design Studies(T_ADS)による「もがく建築家、理論を考える」を読了しました
 私は都市プランナーと称していますが、都市計画・都市交通や市街地開発が専門で土木系のプランナーなので、建築系の方々に比べると「センスの悪い」(笑)プランナーだと思います。
 このため「センスの良い図面を描き」「プレゼンもスマートな」建築家諸氏、中でも高名な建築家が「もがいている」といわれても、本書を読むまでは、想像もつきませんでした。
 本書は、東京大学無料オンラインコース「現代日本建築の四相|第一相: 理論」の収録画像を元に、書籍として編集したものです。
 なお、このコースは「2012年にハーバード大学とMITにより設立されたMOOC(Massive Open Online Course)プロバイダーであるedX(エデックス)から提供され、無料登録により世界中の誰でも聴講することができます。」とのこと。(日本語音声+英語字幕で配信されています。)
 現在(2021年6月段階)で、四相のうち、「第一相/理論」「第二相/テクノロジー(技術)」「第三相/都市」までが公開されています。
「第四相/人間」は未だ公開されていません。)
 本書の趣旨については、本書見返しで隈研吾氏が以下のように述べています。

本書の趣旨(隈研吾氏:本書見返しより)

 1945年の敗戦から、1964年の東京オリンピック、そして2020年の東京オリンピック。この間の日本の建築は、あらゆる意味で近代の矛盾を引き受けてきました。
 良く世界の人たちから「日本の建築はどうしてこんなにおもしろいのか」と聞かれますが、それは日本の建築がそれだけ矛盾にさらされて、矛盾の中でもがいてきたからこそ、そのもがき方がおもしろかったんだと思う。
 今回の企画では、そのもがきの渦の中で戦った建築家たちの肉声を通じて、現代建築のおもしろさを感じ取ってもらいたいと思います。(隈研吾)

建築家の世代設定

 本書では、日本建築界の巨人であった丹下健三氏と同氏の世代を第1世代とし、以下、次のような世代を設定しています。(各世代の解説は本書の記述を簡略化しています)

第1世代 丹下健三、前川國男、坂倉準三、吉阪隆正など
第2世代 槇文彦、磯崎新、黒川紀章など (1930年前後生まれ)
 丹下健三をどう乗り越えるかという意識が特に強かった。このうち、
 「2.5世代」として原広司や香山壽夫を指すことがある。
第3世代 安藤忠雄、伊東豊雄など (およそ1940年代生まれ)
 日本がすでに豊かになり低成長時代に入る1970年代から活動を始めている。モダニズムの後の成熟した社会で、モダニズム批判が巻き起こった時代を生きている。
第4世代 隈研吾、妹島和世、坂茂など、(およそ1950年代生まれ)
 バブル崩壊の後の世代である。「失われた20年」といわれる経済的な危機を迎えたため、海外の仕事が多くなったことも、第四世代の一つの特徴といえる。
第5世代 塚本由晴、藤本壮介など (第4世代の後の世代)
 日本が経済的な危機を迎えただけでなく、阪神大震災や東日本大震災など、自然災害というさらなる衝撃を受けた後に活動を始める。

本書の著者たち

 本書の著者は、上記の、磯崎新、香山壽夫、隈研吾、妹島和世のほか、藤森照信、大野秀敏、小渕祐介、木内俊彦の各氏です。
 また、本書は前述のとおりT_ADSの東京大学無料オンラインコース「現代日本建築の四層」シリーズの「第一層 理論」をベースにしています。
 著者がそれぞれの代表作を題材に自らの建築理論を述べる形式をとっており、それぞれの思い、こだわりや「もがき」を語っています。
 いまや大御所と言ってもよい建築家たちが、自らの個性や考え方、世代間の違い、他の建築家をどのように思っているかなどを語っており、興味深く読ませていただきました。
 
 私は、大野秀敏氏らの「ファイバーシティ論」に興味を持ち、調べていた際にたまたま本書に出合いました。「建築家はどのようなことを考えながら設計しているのか」がリアルに感じられる書籍であり、建築を専門としない方にも是非おすすめしたいと思います。

「現代日本建築の四相」の第二相~第四相と今後

 また、「第二相/テクノロジー(技術)」「第三相/都市」(公開済)「第四相/人間」(未公開)についてですが、他の建築家も参加しながら、東京大学無料オンラインコースやYOUTUBEで動画が公開されていますので、同様に書籍化されることを願っています。

<目次・収録概要>

◆大御所の建築家を集めて、何を企んでいるのか? /小渕祐介
◆なぜいま丹下健三から考えるのか /隈 研吾十小渕祐介
 収録日 2016年3月9日、5月14日
 場所 国立代々木竸技場、隈研吾建築都市設計事
◆空間を感知するために /磯崎 新
 収録日 2015年12月19日
 場所 群馬県立近代美術館
◆様式を共有する /香山壽夫
 収録日 2016年1月1日
 場所 彩の国さいたま芸術劇場
◆建築の始原へ/藤森照信
 収録日 2015年2月21日
 場所 ラ・コリーナ近江八幡
◆つなぐ建築/大野秀敏
 収録日 2016年11月19日
 場所 はあと保育園
◆建築より大きく、都市より小さく /妹島和世
 収録日 2016年2月21日、3月5日
 場所 大島、妹島和世建築設計事務所
◆日常の建築家 /木内俊彦
 収録日 2016年3月7日
 場所 浅草文化観光センター
◆建築を考える/建築で考えるー結びにかえて /木内俊彦

<参考> 関連URL

東京大学建築学専攻Advanced Design Studies(T_ADS) 動画
https://www.youtube.com/channel/UC6xelKyYM8a1hsQIpBrSkoQ/videos

東京大学無料オンラインコース「現代日本建築の四相|第一相: 理論」開講のお知らせ
https://arch.t.u-tokyo.ac.jp/activity/activity-1943/
東京大学無料オンラインコース (現代日本建築の4つの側面)
https://www.edx.org/school/utokyox

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